APG分類

はじめに

APG(Angiosperm Phylogeny Group)は、被子植物の分類体系を分子系統学的証拠に基づいて再構築することを目的として1990年代後半に設立された国際的な研究グループです。従来の形態学的特徴に重点を置いた分類体系とは異なり、DNA や RNA 配列の解析結果を主要な根拠として、被子植物の進化系統関係を反映した自然分類の確立を目指しています(Angiosperm Phylogeny Group, 1998)。

APGは1998年の初版(APG I)から2016年の第4版(APG IV)まで継続的に改訂を重ね、2026年には第5版(APG V)が公表されました。現在では世界的に最も権威ある被子植物分類体系の一つとして認知されています。多くの植物学的研究、フローラ編纂、植物標本館での整理において標準的な分類体系として採用されており、国際植物分類学会議(International Botanical Congress)での議論においても中心的な位置を占めています(Angiosperm Phylogeny Group, 2016, 2026)。

本ページでは、APG分類体系の学術的基盤と体系的構造について、国際植物命名規約(ICN: International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants)に準拠した客観的な整理を行います。2026年に公表されたAPG Vについては、APG IVからの変更点とその根拠もあわせて取り上げます。記述内容は原典論文と公式発表に基づき、研究コミュニティにおける中立的な評価を反映したものとします。

成立と改訂史

APG分類体系の成立背景には、1990年代における分子系統解析技術の飛躍的進歩があります。特に DNA 配列決定技術の向上とコンピューター解析能力の発達により、従来の形態学的証拠のみに依存していた植物分類学に革新的な変化がもたらされました。APGは世界各国の系統分類学者が参加する非公式な研究グループとして発足し、被子植物全体の系統関係解明と分類体系の統一を目標として活動を開始しました(Angiosperm Phylogeny Group, 1998)。

APG I(1998年)では、それまでに蓄積された分子系統学的証拠を総合し、被子植物を462科40目に整理しました。この初版では多くの科が暫定的な配置に留められており、十分な系統学的証拠が得られていない群については「未確定科」として扱われました。APG II(2003年)では、追加的な分子データに基づいて457科(60目)への再編が行われました。この版では、科の範囲を広くとるか狭くとるかを利用者が選べる、括弧付きの方式が導入されました(Angiosperm Phylogeny Group, 2003, 2026)。

APG III(2009年)は大幅な改訂版であり、科数を413まで削減しました。APG IIの括弧付き方式は、分類学の専門家ではない利用者から、自分では判断できないので選択肢をなくしてほしいという声が多く寄せられたため廃止され、ほとんどの場合で広い範囲の科が採用されました。同時に、新たな目の設立と既存目の再編も行われました(Angiosperm Phylogeny Group, 2009, 2026)。

APG IV(2016年)では、416科64目となりました。APG IVからは、1科のみからなる目(単科目)も認められるようになり、この方針はAPG Vにも引き継がれています。APGの目数はAPG IIの60からAPG Vの66へ増加していますが、これは主として単科目の増加によるものです。APG III以降は安定性が重視され、APG IVとAPG Vで行われたのは、慎重に検討された限られた変更でした(Angiosperm Phylogeny Group, 2016, 2026)。

2026年には第5版のAPG Vが公表されました。

APG V(2026)の概要

APG Vは、Journal of Systematics and Evolution 64巻5号(845–874頁、2026年)に掲載された論文で、論文の区分はReview(総説)です。論文題名は「Large-scale nuclear and plastid phylogenomic analyses inform an updated Angiosperm Phylogeny Group classification: APG V」で、核ゲノムと葉緑体ゲノムの大規模な系統ゲノム解析に基づく更新版のAPG分類、という意味です。投稿は2025年12月11日、受理は2026年6月4日で、オープンアクセス論文として公開されています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

論文は、James W. Byng、Mark W. Chase、Maarten J. M. Christenhusz、Michael F. Fay、De-Zhu Li、Hong Ma、David J. Mabberley、Douglas E. Soltis、Pamela S. Soltis、Peter F. Stevens の10名が編纂し、全員が等しく責任を負うと明記されています。執筆を主導したのは、Mark W. Chase、Pamela S. Soltis、Douglas E. Soltis の3名です。

APG Vの位置づけとして重要なのは、これが既に発表された研究成果を統合した要約であり、特定の解析や解析の組み合わせに基づくものではないと、論文自身が述べている点です。論文中の系統樹(Fig. 1)も、特定のDNAデータセットを新たに解析した結果ではなく、目の間の関係を核遺伝子配列に基づいて要約した図です。その根拠となる研究の例として、One Thousand Plant Transcriptomes Initiative(2019)、Stull et al.(2020)、Yang et al.(2020)、Xiang et al.(2024)、Zuntini et al.(2024)が挙げられています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

APG I〜IVは、ほぼ葉緑体ゲノムのDNA領域(最初は rbcL、のちに atpB)に基づく分子系統解析に依存していました。しかしAPG IV以降、広範な雑種形成や祖先多型の継承を示す証拠が蓄積し、遺伝子系統樹どうしの不一致が明らかになりました。APG Vは、数百の核遺伝子と葉緑体遺伝子を扱った大規模な解析を考慮して作られており、論文はこれを、分類の根拠を核ゲノムに求める方向への転換点と位置づけています。それでもAPG IVの分類の大部分は葉緑体と核の両方の解析で支持され、必要となった改訂は限られたものでした。

葉緑体と核の結果が食い違う場合の方針も、論文では明示されています。曖昧さがなく十分に支持された大規模な核ゲノム系統樹を、葉緑体の結果よりも優先します。一方、核遺伝子の系統樹どうしの不一致が大きく、50%を超える遺伝子系統樹で一致する結果が得られない場合や、不一致の原因が不明な場合には、その関係を不確実・暫定的なものとして扱い、要約系統樹(Fig. 1)では多分岐(ポリトミー)で示します。位置が定まらない分類群は、目や大きな群に対して「未配置(unplaced)」とされます(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

APG Vが認める科は407科、目は66目です。論文の付録Aでは科名が目ごとにアルファベット順に、付録Bでは目と科が系統の順に並べられた線形分類として示されており、APG IVの通し番号も併記されています。付録Aでは、APG IV以降に科の範囲が変わった科や新たに加わった科に「*」、新設または範囲が改められた目に「†」、主要な群の関係が新しくなったものに「‡」の印が付けられています。教育用のポスターも公開されています。

また、論文の草稿はオンライン調査にかけられました。調査には234件の回答があり、回答者の所属は大学が62%、植物標本館が32%、植物園が30%、博物館が8%でした(重複あり)。回答者の62%がAPG Vの分類に80%を超えて同意し、14%が50〜80%、7%が50%未満で、17%は意見なしでした。意見の相違が集中したのは、Boraginales と、Gesneriaceae/Calceolariaceae/Peltantheraceae の扱いでした(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

なお、同様の取り組みであるコケ植物のBryophyte Phylogeny Groupやシダ植物のPteridophyte Phylogeny Groupの分類は、ほぼ葉緑体DNAに基づいており、核遺伝子のデータを分類に取り入れる点ではAPGが先行している、と論文は述べています。

基本原則と方法論

APG分類体系の根本原理は単系統群(monophyly)の重視にあります。単系統群とは、共通祖先とその祖先から派生したすべての子孫からなる群であり、自然な進化単位を表します。APGでは、分子系統解析により支持される単系統群のみを分類群として認め、側系統群(paraphyletic group)や多系統群(polyphyletic group)の排除を基本方針としています(Angiosperm Phylogeny Group, 1998)。APG Vでは、雑種形成や不完全な系統選別(ILS)による遺伝子系統樹どうしの不一致が広く見られることが前提とされていますが、それが目や科といった分類階級に影響するのは一部に限られるとされています。起源が雑種と推定される群(Ericales など)についても、他の科や目と同様に命名したうえで、雑種起源の可能性を注記する方針です(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

分子データとしては、APG I〜IVでは主として葉緑体 DNA 配列(rbcL、続いて atpB など)が用いられました。葉緑体は細胞内に多数あり、それぞれが1つのゲノムを持つこと、また系統推定に適した進化速度を持つことが理由です。初期には核リボソーム RNA 配列(18S、26S rRNA)も併用されましたが、解像度が低いことに加え、協調進化のために雑種形成の証拠が隠れてしまうという問題がありました。APG IV(2016)では、17遺伝子のデータセットと、葉緑体・ミトコンドリア遺伝子の解析結果が骨格となりました。APG V(2026)では、トランスクリプトーム、ターゲットシーケンスキャプチャ、ゲノム全体の配列といった大規模な核遺伝子データが加わり、分類の根拠の中心が核ゲノムに移りました。系統樹はコアレッセント法、連結解析、各種の重み付き解析など複数の方法で解析され、結果が概ね一致していることが確認されています。形態学的証拠も補完的に活用されますが、分子証拠と矛盾する場合は分子証拠が優先される傾向があります(Angiosperm Phylogeny Group, 2009, 2026; Stevens, 2001 onwards)。

命名法については、国際植物命名規約(ICN)への厳格な準拠が原則とされています。科名は通常、その科に含まれる代表的な属の名前に接尾辞「-aceae」を付けて形成されます(例:Rosa 属を含むバラ科=Rosaceae)。目名は「-ales」の接尾辞を持ちます(例:Rosales)。ただし、伝統的に使用されてきた科名(Compositae、Gramineae、Leguminosae 等)についても代替名として認められています(Turland et al., 2018)。科より上の階級では優先権の規定が適用されませんが、APG Vでは、あまり使われていない目名が複数ある場合には優先権を第一の基準とする方針が示されています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

分類群の扱いには、いくつかの原則があります。第一に安定性です。すでに単系統であることが示されたAPGの科や目は、後から分割しません。科名や目名は、非単系統であることが示された場合と、小さな科(単属・単種の科など)を姉妹群の科に含めたほうがよい場合を除いて変更しません。第二に、小さな科の統合です。単属の科や単科の目が別の科・目の姉妹群であり、共有する形質がある場合には、重複を減らして体系の情報量を高めるために統合することがあります。第三に、不確実性の扱いです。核遺伝子の系統樹で不一致が大きい群は、無理に配置せず、未配置またはポリトミーとして示します。第四に、分岐年代による階級の統一は行いません。科が生じた年代は科ごとに大きく異なり、年代で階級をそろえようとすれば分類体系が大きく混乱するためです(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。また、寄生植物や菌従属栄養植物のように、遺伝子が大きく変化している群では、長枝誘引(long-branch attraction)などのアーティファクトに注意が必要とされています。

現行体系(APG V)の全体像

APG Vでは、被子植物を66目407科に分類しています(APG IVは64目416科)。最上位の分類では、被子植物は ANA 群(Amborellales、Nymphaeales、Austrobaileyales)、モクレン類(magnoliids。Chloranthales を含む)、単子葉類(monocots)、ceratophyllids(Ceratophyllales のみ)、真正双子葉類(eudicots)に大別されます(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

ANA 群は被子植物の最基部で分岐したグループとされ、3目7科からなる小さな群です。Amborellales は Amborellaceae 1科、Nymphaeales は Hydatellaceae、Cabombaceae、Nymphaeaceae の3科、Austrobaileyales は Austrobaileyaceae、Trimeniaceae、Schisandraceae の3科で構成されます。Amborellaceae は1属1種の Amborella trichopoda のみからなり、ニューカレドニア固有です。いずれの群も原始的形質を多く保持しています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026; Stevens, 2001 onwards)。

モクレン類は、Chloranthales、Canellales、Piperales、Magnoliales、Laurales の5目19科からなります。このうち Canellales、Piperales、Magnoliales、Laurales の4目が系統樹(Fig. 1)で「magnoliids」として括られ、Chloranthales(Chloranthaceae 1科)はその姉妹群として示されています。この群は木本性、原始的花構造、特殊な精油細胞などの特徴を共有しています。主要な科としては、モクレン科(Magnoliaceae)、クスノキ科(Lauraceae)、コショウ科(Piperaceae)、ドクダミ科(Saururaceae)などがあります。葉緑体の系統樹では、モクレン類と Chloranthaceae が単子葉類+真正双子葉類の姉妹群になるのに対し、核遺伝子では、単子葉類がモクレン類・Chloranthales・真正双子葉類からなる大きな群の姉妹群となることが多いという不一致があります。この不一致の原因として、古代の雑種形成が示唆されています(Guo et al., 2021; Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

単子葉類は11目76科からなり、被子植物全体の約23%を占める大きな群です。Acorales、Alismatales、Petrosaviales、Dioscoreales、Pandanales、Liliales、Asparagales、Arecales、Poales、Commelinales、Zingiberales の11目に分類されます。イネ科(Poaceae)、ラン科(Orchidaceae)、ユリ科(Liliaceae)など、経済的・生態的に重要な科が多数含まれています。APG IV(77科)からは、Asparagales で Ixioliriaceae が Tecophilaeaceae に含められたため、科数が1つ減っています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

Ceratophyllales(Ceratophyllaceae のみ)は、APG Vでは真正双子葉類に含めず、非公式の群「ceratophyllids」として扱われています。その位置は、さらに検討しなければ確実に分類できないとされています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

真正双子葉類は最大の群であり、46目304科を含みます。Ranunculales、Proteales、Trochodendrales、Buxales の4目と、コア真正双子葉類(core eudicots)に大別されます。コア真正双子葉類には、Gunnerales、Dilleniales、superrosids(Vitales、Saxifragales、バラ群)、Caryophyllales、Santalales、superasterids(Berberidopsidales、キク群)が含まれます。APG IVでは Caryophyllales と Santalales が superasterids に含められていましたが、APG Vでは、核とミトコンドリアの解析で位置が定まらないため、superrosids にも superasterids にも含めていません(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

バラ群(rosids)は、Crossosomatales、Geraniales、Zygophyllales、Myrtales の4目と、マメ群(fabids)、アオイ群(malvids)に分けられます。マメ群は窒素固定を行う4目(Fagales、Fabales、Cucurbitales、Rosales)に限られ、アオイ群は Picramniales、Celastrales、Malpighiales、Huerteales、Oxalidales、Sapindales、Brassicales、Malvales の8目からなります。Huaceae は目に未配置の科として扱われています。キク群(asterids)は、Cornales、Ericales、シソ群(lamiids:Cardiopteridales、Garryales、Aquifoliales、Icacinales、Vahliales、Solanales、Boraginales、Gentianales、Lamiales の9目)、キキョウ群(campanulids:Oncothecales、Metteniusales、Bruniales、Asterales、Escalloniales、Paracryphiales、Dipsacales、Apiales の8目と、目に未配置の Columelliaceae)に分けられます。バラ群にはアブラナ科(Brassicaceae)、マメ科(Fabaceae)、バラ科(Rosaceae)など、キク群にはキク科(Asteraceae)、シソ科(Lamiaceae)、ナス科(Solanaceae)などの重要な科が属します(Angiosperm Phylogeny Group, 2026; Stevens, 2001 onwards)。

APG IVからの変更点と根拠

APG Vの論文によれば、APG IVの分類の大部分は葉緑体と核の両方の解析で支持されており、目レベルの変更は少数にとどまります。変更は、十分に支持された核ゲノムの解析結果(とくに葉緑体ゲノム全体の解析とも矛盾しないもの)に基づくこと、小さな科を近縁の科に統合する場合があること、不一致が大きい群は未配置とすることを方針として行われています。以下、論文の記述に沿って整理します。

目レベルの変更

マメ群とアオイ群の再編。 APG IVの根拠となった葉緑体ゲノム解析(Li et al., 2021)では、マメ群とアオイ群が姉妹群となり、COM clade(Celastrales、Oxalidales、Malpighiales)はマメ群に含まれていました。一方、ミトコンドリアと核の解析からはより複雑な進化の様子が示され、Sun et al.(2015)はバラ群の初期の分岐で深い網状進化が起きた可能性を示しました。Zuntini et al.(2024)では、COM の3目は単系統にならず、いずれもアオイ群に入ります。One Thousand Plant Transcriptomes Initiative(2019)、Yang et al.(2020)、Xiang et al.(2024)、Zuntini et al.(2024)、Zhao et al.(2025)の核DNA系統樹はいずれも、マメ群を窒素固定性の4目(Cucurbitales、Rosales、Fagales、Fabales)に限る結果を示しており、Lin et al.(2025)のミトコンドリア遺伝子解析でも同様の結果が得られています。こうして APG Vでは、マメ群をこの4目に限り、アオイ群に COM の3目を含めました。核とミトコンドリアの解析では、Huerteales、Picramniales、Huaceae もアオイ群に近縁とされています。一方、Crossosomatales、Geraniales、Myrtales、Zygophyllales の位置は明確ではありません。ただし、Huaceae 以外では、これらの変更は APG IVの科や目の範囲には影響しません。

Huaceae の目への未配置。 Huaceae は APG IVでは Oxalidales に置かれていましたが、葉緑体のみの系統樹では支持が一定せず、Zuntini et al.(2024)では Celastrales や Malpighiales に近縁で Oxalidales とは近縁でないという結果が出ましたが、具体的な位置は十分に支持されていません。そのため、位置がより明確になるまで目に未配置の科とされました。Huales を認める提案もありますが、Huaceae の位置が不確かなためAPG Vでは採用されていません。

Cucurbitales の範囲と Rafflesiaceae、Peraceae。 Apodanthaceae は、葉緑体DNA(Li et al., 2021)などで Cucurbitales に置かれてきましたが、Zuntini et al.(2024)では Malpighiales のほとんど(またはすべて)の姉妹群となり、ただし遺伝子の回収率は低いと注記されています。1000を超える核遺伝子座を用いた Alzate et al.(2024)では、Apodanthaceae が Rafflesiaceae の姉妹群として強く支持されました。Apodanthaceae はもともと Rafflesiaceae に含められてきた経緯があり、APG Vでは Apodanthaceae を Rafflesiaceae(Malpighiales)に含め、Cucurbitales から除きました。ただし、2135の核遺伝子を解析した Cai et al.(2026)は、Rafflesiaceae の位置が手法により変わることを示し、このような寄生植物は現在の手法やゲノムデータでは明快に解決できない系統的な「危険地帯」にあると指摘しています。この変更に伴い、APG IVで Rafflesiaceae との関係から Euphorbiaceae より分離されていた Peraceae は、Zuntini et al.(2024)で Euphorbiaceae の姉妹群となったため、Euphorbiaceae に戻されました。

Vitales と Saxifragales。 APG IVでは、Vitales がバラ群に、Saxifragales が superrosids に含められていました。これは葉緑体の解析結果を反映したものです。ミトコンドリアの樹では両者はバラ群とキク群の外側に置かれ(Lin et al., 2025)、核の樹(Xiang et al., 2024; Zuntini et al., 2024; Zhao et al., 2025)では、Vitales と Saxifragales が順にバラ群の姉妹群となり、葉緑体の結果とは位置が逆になります。APG Vでは、両者をバラ群に近縁な目として superrosids に含めました。

Caryophyllales と Santalales。 葉緑体の解析(Li et al., 2021)では、Caryophyllales と Santalales は superasterids に含まれていました。しかし、核とミトコンドリアの解析では、これらをどこに置くべきかが定まりません。APG Vでは、Berberidopsidales はキク群の姉妹群であるため superasterids に残しますが、Caryophyllales と Santalales は superrosids と superasterids のどちらにも含めず、位置未確定として扱います。いずれも目や科の範囲には影響しません。

Ceratophyllales と Chloranthales、Ericales。 Ceratophyllaceae は、葉緑体と核の両方の解析(One Thousand Plant Transcriptomes Initiative, 2019; Yang et al., 2020; Guo et al., 2021 など)で真正双子葉類の姉妹群として中程度から強い支持を得ています。ところが Zuntini et al.(2024)は、支持は弱いものの、ANA 群を除くすべての被子植物の姉妹群という結果を得ています。このため APG Vは、Ceratophyllaceae を真正双子葉類に含めず、非公式の群「ceratophyllids」として扱いました。Chloranthaceae は、複数の核DNA解析(Guo et al., 2021; Zuntini et al., 2024)でモクレン類の姉妹群として支持されたため、Chloranthales が引き続き認められています。Ericales は、Cornales の祖先と大きなキク群の祖先との間で約1億2000万年前に起きた古代の雑種形成の産物とみられ(Stull et al., 2020)、位置の確定が難しいため、雑種起源の可能性を注記して分類しています。

キク群での目の新設と再編。 核の解析で、Oncothecaceae は他の目から孤立したキキョウ群の科として強く支持される(Stull et al., 2020; Zhang et al., 2020)ため、Oncothecales(Oncothecaceae のみ)が新たに認められました。これに伴い、Icacinales は Icacinaceae のみに限られました。Cardiopteridales(Cardiopteridaceae と Stemonuraceae)も新たに認められています。この2科は、葉緑体の解析(Li et al., 2021 など)では Aquifoliales に含まれていましたが、核の解析(Zhang et al., 2020; Zuntini et al., 2024)ではシソ群の大きな群の姉妹群となるためです。その結果、Aquifoliales は Aquifoliaceae と Helwingiaceae だけに限られます。Cassinopsis は Icacinaceae から Metteniusaceae に移されましたが、これは葉緑体と核の解析結果の不一致を示す例であり、核の解析結果は微細形態の共有派生形質とよく一致します(Stull et al., 2020)。Bruniales は Bruniaceae のみに限られ、Columelliaceae は Dipsacales と Escalloniales に近い目未配置の科となりました(Zhang et al., 2020; Zuntini et al., 2024)。Zuntini et al.(2024)では Bruniales はキキョウ群の中で位置が定まらず、葉緑体の解析(Li et al., 2021)で見られた Dipsacales や Apiales との近縁性は支持されていません。Columelliaceae が両目の姉妹群と確定すれば Columelliales が妥当になるとされています。

科レベルの変更

科の範囲が広げられたものとして、論文は次の7つを挙げています。

Asparagales では、Tecophilaeaceae に Ixioliriaceae が含められました。核の解析で Ixiolirion が Tecophilaeaceae の姉妹群として支持されること、葉緑体の解析では位置がはっきりしない場合があること、形態も似ること(葉のつく茎、鱗茎、多くは子房下位の花)が根拠です。Doryanthaceae の Doryanthes も形態的には Tecophilaeaceae に合いますが、核DNAによる明確な支持がないため、統合は見送られました。

Caryophyllales では、Frankeniaceae に Tamaricaceae が含められました。Frankenia 1属からなる Frankeniaceae は、葉の対生・互生の違いで Tamaricaceae と区別されますが、塩を排出する腺を持つ小さな葉、花弁の基部の鱗片状の付属物、二次代謝産物、花粉の形態などを共有し、古くから近縁な科のペアとされてきました。重複を減らすため統合され、名前は命名法上の先取権のある Frankeniaceae が使われます。また Phytolaccaceae には、Agdestidaceae と Sarcobataceae が含められました。Agdestis が Sarcobatus と姉妹群になり Phytolaccaceae からは離れることは、葉緑体の2領域の解析や葉緑体ゲノム全体の解析で示されており、Zuntini et al.(2024)の核DNAでも似た結果が出ています。そのため、Phytolaccaceae に含めるか、Agdestidaceae を独立の科として認めるかのどちらかを選ぶ必要がありました。APG Vは、Agdestis が形態的に Phytolaccaceae に無理なく収まることを理由に、前者を選んでいます。

Aquifoliales では、Helwingiaceae に Phyllonomaceae が含められました。葉の表面に花序がつくこと(epiphyllous inflorescence)が共有派生形質となる可能性があり、この姉妹ペアを統合すると体系の重複が減ります。複数の葉緑体の解析と、Zuntini et al.(2024)の核の結果もこれと整合します。

Lamiales では、Gesneriaceae に Calceolariaceae と Peltantheraceae が含められました。APG IVでは Peltanthera は未配置のままでしたが、近年のすべての系統解析でこの3者を含む大きなクレードが一貫して支持されるため、最も安定した解決として1科にまとめられました。ペアで花をつける集散花序が Calceolariaceae と大半の Gesneriaceae に共通しますが、これは Peltanthera にはなく、Gesneriaceae のなかにも例外があるため、3者を統合しても形態の多様性は新たには加わりません。亜科による分類を併用することが想定されています。

同じ Lamiales の Orobanchaceae では、Mazaceae、Paulowniaceae、Phrymaceae、Wightiaceae が含められました(Rehmanniaceae はAPG IVで既に含まれていました)。これらの科は、属の構成や系統関係が次々と変わってきたため、Orobanchaceae の範囲を広くとって安定させ、その内部は亜科や族で整理していく方針です。

Ericales では、Pentaphylacaceae に Sladeniaceae が含められました。Yu et al.(2025)の核DNAの解析結果(葉緑体の系統樹では得られなかった関係)と、Sladenia を他の Pentaphylacaceae から分ける明確な形態的特徴がないことから、統合が適切と判断されています。

Malpighiales の Euphorbiaceae に Peraceae が、Rafflesiaceae に Apodanthaceae が含められた経緯は、上記のとおりです。

そのほかの科レベルの変更としては、次のものがあります。

Brassicales では、Salvadoraceae に Bataceae が含められました。Swanepoel et al.(2020)で、Bataceae の Batis が Salvadoraceae の Azima の姉妹群となり、この2者が Salvadora の姉妹群となったためで、花序などの形態も共通します。また、同じ論文で記載された Tiganophytaceae が新たに認められています。ただし、その位置は解析する遺伝子やゲノムによって異なり、Salvadoraceae(Bataceae を含む)の姉妹群とする結果と、Bataceae とともに側系統の Salvadoraceae に入るとする結果(Zuntini et al., 2024)があります。3科は花の形質を多く共有しており統合も可能ですが、現時点の知見では Tiganophytaceae を認めるのが適切とされています。

Santalales は引き続き難しい群として扱われています。Santalaceae と Olacaceae の範囲が見直され、Olacaceae は Erythropalaceae と Strombosiaceae を除き、Aptandraceae、Coulaceae、Octoknemaceae、Ximeniaceae を含むものとなり、Erythropalaceae と Strombosiaceae は独立の科として認められました。Cauz-Santos et al.(2026)は既存の配列データを再整列し、Olacaceae のクレードを83%のブートストラップ値で支持しました。核データを用いた Anderson et al.(2025)の結果も、解像度はやや低いものの同様でした。Balanophoraceae は Santalaceae とは別の科として保たれていますが、暫定的な配置です。Cauz-Santos et al.(2026)の最尤法では Santalaceae に含まれる結果(ブートストラップ値98%)でしたが、Anderson et al.(2025)では含まれず、しかも核遺伝子の回収に問題があるためです。

Dipsacales では、科名が Adoxaceae から Viburnaceae に変わりました。Viburnaceae が Adoxaceae より優先して保存されているため(Turland et al., 2018)、Adoxa を含める場合には Viburnaceae を使うことになります。

維持された点・保留された点

論文は、証拠が不十分であるとして、現行の扱いを維持した例も挙げています。

Dioscoreales は、菌従属栄養植物(Thismiaceae など)の遺伝子が大きく変化していて核遺伝子の回収率が低く、位置の不確かさや長枝誘引の問題があるため、APG IVの科の枠組みが維持されました。Afrothismiaceae、Taccaceae、Thismiaceae は、暫定的に「Dioscoreaceae」に含められています(引用符は、単系統でない可能性があることを示します)。Burmanniaceae と、APG IVの範囲での Dioscoreaceae も、研究によっては非単系統になることが認められています。

Piperales の Hydnoraceae は、研究によって位置が分かれ、核遺伝子の系統樹の35%が Aristolochiaceae に含まれる位置を支持しているため、引き続き Aristolochiaceae に含められています。Lactoridaceae も Aristolochiaceae に含まれます。

Arecales の Dasypogonaceae は、葉緑体の樹では Arecaceae の姉妹群として強く支持されますが、核の結果は遺伝子系統樹間の不一致が大きく、APG IVと同様に Arecales に置きつつ、問題のある配置であると認めています。

Boraginales は、11科または9科に分ける近年の提案が検討されましたが、分けた科の範囲や相互の位置に問題があり、利用者にとっても馴染みのない科が多いため、APG IVと同じく Boraginaceae 1科(目としては Boraginales)のままとされました。亜科による分類を併用することが有用とされています。

Escalloniales と Paracryphiales は、Zuntini et al.(2024)で Escalloniaceae が Paracryphiaceae に至る側系統の群となったものの支持が弱く、遺伝子系統樹の不一致もあるため、現状のまま維持されました。そのほか、Corbichonia を Lophiocarpaceae に含める扱いや、Celastraceae の広い範囲も維持されています。

分類位置不明の分類群(incertae sedis)

APG IVで位置不明とされていた7つの分類群のうち、3つは位置が判明しました。Coptocheile macrorrhiza は Sinningia bulbosa(Gesneriaceae)のシノニム、Hirania rosea は Sapindaceae、Rumphia amboinensis は Canarium strictum(Burseraceae)のシノニムである可能性が高いとされています。残る Atrichodendron、Gumillea(Picramniales または Huerteales の可能性)、Keithia、Poilanedora(Zygophyllales の可能性)の4つは、標本やDNAデータが得られず、引き続き位置不明です。

他体系との比較

APG体系以前の主要な分類体系としては、Cronquist体系(1981、1988)と Takhtajan 体系(1980、1997)が国際的に広く使用されていました。これらの体系と APG との間には、分類学的概念と分類群の配置において重要な相違点が存在します。

Cronquist 体系では、被子植物を6綱(モクレン綱、ハマメリダ綱、ナデシコ綱、ビワモドキ綱、バラ綱、キク綱)に分類していました。しかし、分子系統解析により、これらの綱の多くが多系統的または側系統的であることが明らかになりました。特に、ハマメリダ綱(風媒花植物を中心とした群)は完全に解体され、その構成科は真正双子葉類の様々な系統に分散配置されました(Angiosperm Phylogeny Group, 1998; Stevens, 2001 onwards)。

Takhtajan 体系では、より細分化されたアプローチが取られ、被子植物を多数の綱と亜綱に分類していました。しかし、この体系も形態学的特徴に基づいており、分子証拠とは整合しない分類群が多数含まれていました。例えば、単子葉類の内部系統関係について、形態学的証拠に基づく Takhtajan 体系と APG との間には大きな相違がありました(Angiosperm Phylogeny Group, 2009)。

現在の地域フローラや法規制での採用状況は多様です。Flora of North America、Flora Europaea などの主要フローラプロジェクトでは段階的にAPG体系への移行が進んでいますが、完全な統一には至っていません。ワシントン条約(CITES)や IUCN レッドリストなどの国際的な保護制度では、実用的観点から従来体系との併用が続いています(Stevens, 2001 onwards)。

主要な植物分類データベース間でも取り扱いに差異があります。Plants of the World Online(POWO)は Royal Botanic Gardens, Kew が運営しており、APG IVに準拠して運用されてきましたが、一部で独自の解釈を含んでいます。World Flora Online(WFO)は国際的な協力プロジェクトであり、APGベースでありながら地域的な慣行も考慮しています。Tropicos は Missouri Botanical Garden が運営しており、歴史的な分類体系との互換性も重視しています(Stevens, 2001 onwards)。なお、2026年のAPG V公表後に各データベースがどのように対応するかは、それぞれの公式の更新情報で確認する必要があります。

批判と課題

APG分類体系に対する主な批判は、分子データへの過度な依存と形態学的証拠の軽視にあります。特に、分子系統解析の結果が明確でない場合の分類判断や、形態的に大きく異なる分類群の統合については、一部の研究者から疑問視されています(Cronquist, 1988; Takhtajan, 1997)。APG Vの論文自身も、Asparagales や Lamiales などで新たに認められた科の一部には、DNA以外の共有派生形質が見つかっておらず、その探索が必要であることを認めています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

データ不足による暫定的配置も重要な課題です。分子データが十分に得られていない科や属については、系統的位置が不安定であり、新たなデータの蓄積により大きく配置が変更される可能性があります。特に、分布域が限定された固有種や絶滅危惧種では、サンプル収集の困難さから系統解析が不十分な場合が多いです(Angiosperm Phylogeny Group, 2016)。APG Vでも、寄生植物や菌従属栄養植物では、核遺伝子の回収率が低いことや遺伝子が大きく変化していることから、位置づけが不確実とされています。位置不明の分類群も4つ残されています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

科・目境界の不安定性も指摘される問題です。分子系統解析により近縁性が示された群をどのレベルで分割するかについては、客観的基準が確立されておらず、研究者間での見解の相違が存在します。これは特に、急速に種分化が起こった群や、逆に形態的変化が少ない群において顕著です(Stevens, 2001 onwards)。APG Vの調査でも、意見の相違は Boraginales や Gesneriaceae の扱いに集中しました。さらにAPG Vは、核遺伝子の解析で雑種形成や不完全な系統選別による遺伝子系統樹間の不一致が広く見られることを示しており、特にコア真正双子葉類における目の相対的な配置は、今後変わる可能性が高いとしています(Angiosperm Phylogeny Group, 2026)。

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